2025.09.30

イベントレポート

アクセラレーションプログラム FASTAR 11th DemoDay(前編)

14社のスタートアップが未来を切り拓く

「FASTAR」とは、独立行政法人 中小企業基盤整備機構が実施するアクセラレーションプログラムです。

2025年8月29日に開催された「第11回 DEMODAY」では、2025年に第11期として採択された14社のスタートアップが登壇し、約1年間にわたるプログラムで磨き上げられた事業計画と事業成果を発表しました。 会場やオンライン視聴では、投資家を中心とした多くの観覧者で満席となり、それぞれのスタートアップが社会課題解決や産業変革に挑む姿勢を力強くアピールしました。

FASTAR 11th DemoDay様子

登壇した企業14社は以下の通りです。

1. 株式会社サイディン
2. イルミメディカル株式会社
3. 株式会社ヘッジホッグ・メドテック
4. 株式会社TANSAQ(タンサク)
5. 株式会社セカンドハート
6. ペンタリンク株式会社
7. 株式会社esa(イーサ)
8. 株式会社ベホマル
9. 株式会社TAK薄膜デバイス研究所
10. cycaltrust株式会社(サイカルトラスト)
11. 株式会社X(エックス)
12. 株式会社KeyWeave(キーウィーブ)
13. Smart Robotics Lab.(広島大学 スマートロボティクスラボ)
14. 株式会社FAI(ファイ)

開会に先立ち、主催である独立行政法人 中小企業基盤整備機構 創業・スタートアップ支援部スタートアップ支援課長 加藤丈晴から挨拶がありました。

創業・スタートアップ支援部スタートアップ支援課長 加藤丈晴

「FASTARはこれまで100社以上のスタートアップを支援してきました。第11期の14社が今日ここで成果を発表することを大変嬉しく思います。これからの日本には新しい価値を生み出す力が必要であり、その担い手こそ皆さんです」

続いて、後援者を代表して、経済産業省 中小企業庁 経営支援部創業・新事業促進室長 大竹 真貴氏から挨拶がありました。

経済産業省 中小企業庁 経営支援部創業・新事業促進室長 大竹 真貴氏

「FASTARで磨き上げられた14社の事業計画を楽しみにしていました。日本が成長を続けるためには、高付加価値を生み出すスタートアップが欠かせません。世界的な課題をビジネスで解決する力を存分に発揮してください」

審査員は以下の5名です。

One Capital Co-Founder CEO 浅田慎二氏

One Capital Co-Founder CEO 浅田慎二氏

ロート製薬 CEO付兼未来社会デザイン室長 荒木健史氏

ロート製薬 CEO付兼未来社会デザイン室長 荒木健史氏

THE CREATIVE FUND 代表パートナー 小池藍氏

THE CREATIVE FUND 代表パートナー 小池藍氏

三井住友銀行 成長事業開発部 副部長 手塚崇之氏

三井住友銀行 成長事業開発部 副部長 手塚崇之氏

DCIパートナーズ株式会社 代表取締役 成田宏紀氏

DCIパートナーズ株式会社 代表取締役 成田宏紀氏

ピッチ

参加企業14社のピッチ内容をご紹介します。

1 株式会社サイディン

代表取締役社長 弘津辰徳氏

1 株式会社サイディン

食品から医薬品まで幅広い応用で「生活の質の向上」に挑戦

熊本大学薬学部発のスタートアップで、糖の一種「シクロデキストリン」を活用した研究開発を行っています。食品・日用品から医薬品まで幅広く応用可能な技術で、「生活の質の向上に貢献する」を理念に事業を展開。ピッチでは、脂肪を吸着して体外に排出する粉末素材「ドンマイン」や、薬草を活用した機能性食品・飲料の開発、さらに薬物に応じた最適な誘導体を設計する「シクロデキストリン誘導体設計AIシステム」について紹介しました。

審査員の成田氏(DCIパートナーズ)からから特許戦略について質問があり、「新規誘導体の研究を進め、食品・医薬両分野で特許化を目指す」と回答しました。

2 イルミメディカル株式会社

代表取締役社長CEO 塚本俊彦氏

イルミメディカル

カテーテルで光の届かなかった場所に、光を届ける

カテーテルを用いて血管内から光を届けるという独自技術を武器に、がん治療の革新を目指しています。代表の塚本俊彦氏は前職でカテーテルメーカーに勤めていた経験を背景に、「大企業では事業化が難しい技術を、自らの手で世に出すため起業した」と語りました。同社が開発する「グリッドシステム」は、カテーテルで血管を通じて腫瘍部位まで到達し、内部から光を照射する世界初の仕組み。基盤特許を取得しており、従来の外部照射では難しかった部位にも適用できる可能性があります。さらに、デバイス先端に小型レーザー光源を内蔵しディスポーザブル化することで、専用設備不要で導入障壁を大幅に下げた点も強みです。

審査員の成田氏(DCIパートナーズ)からの導入の容易さに関する質問には「当社のデバイスはディスポーザブル設計で、既存のカテーテル手術室で使える。従来の高額なレーザー装置に比べて導入ハードルは低い」と説明。さらに「光を当てられない領域はほぼなく、脳・膵臓・肝臓・腎臓など幅広い臓器で適用可能」と強調し、今後は既存の光治療薬の承認領域や製薬企業が注力する疾患から展開を始める方針を示しました。

3 株式会社ヘッジホッグ・メドテック

代表取締役CEO 川田裕美氏

株式会社ヘッジホッグ・メドテック

慢性頭痛に挑む、AIとプラットフォームで新たな治療の選択肢を

「慢性頭痛に苦しむ人々に新しい選択肢を提供する」ことを掲げるヘルスケアスタートアップです。従来の診断・治療では十分に対応されてこなかった慢性頭痛に対し、統合的なソリューションを開発。ピッチでは、頭痛患者の多くが市販薬で我慢し、医療機関を受診しても対症療法にとどまる現状を指摘。AIを活用した症状モニタリングと、医師・患者をつなぐプラットフォームを組み合わせ、予防から治療、生活改善まで一気通貫で支援するソリューションを紹介しました。今後は国内外の医療機関や製薬企業と連携し、データ蓄積により臨床精度を高め、年内には医療機器として承認申請を目指します。

審査員の浅田氏(One Capital)から「市場規模が大きいテーマですが、よりパーソナルな動機はありますか」と問われると、川田氏は「夫がひどい頭痛持ちで、毎日のように市販薬を飲んでいる姿を見て、医師である自分としても病院受診を勧めましたが結局は同じ生活に戻ってしまう。この経験が事業の原点になりました」と語りました。

4 株式会社TANSAQ(タンサク)

代表取締役 西脇森衛氏

株式会社TANSAQ(タンサク)

健康診断前後の「行動起動」を設計する未病ケアプログラム

多忙なビジネスパーソンが陥りがちな「健康診断スルー」問題に挑むヘルスケアスタートアップです。代表の西脇氏の当事者経験を基に「未病ケア」の重要性を強く意識し、臨床検査業界で培った知見を活かして起業。同社が開発する「おじテック」は、年に一度の健康診断を「行動変容のゴールデンタイム」と捉え、その前後で身体の中や外の状態を可視化するツールの活用やノンアル体験などのユニークなUX・インセンティブ設計により、行動変容を強力に起動するプログラムです。ピッチでは、実証実験を通じて得られた知見を基に、健診や企業の健康経営支援と組み合わせた展開モデルが紹介されました。

審査員の荒木氏(ロート製薬)は「ご自身の経験が強い動機になっている点に共感した」と評価した上で、未病ケアの核心課題である行動変容のきっかけと継続方法を問いかけました。西脇氏は「健康経営企業とフィットネスジム業界を戦略的に繋ぎ、社員の行動変容を促す仕組みを構築している。人間は必ず飽きる生き物だからこそ、ひとつのソリューションに依存せず、多様な選択肢で継続できる健康経営支援プログラムを育成したい」と力強く答えました。

5 株式会社セカンドハート

代表取締役 石田幸広氏

株式会社セカンドハート

糖尿病による足切断ゼロを目指して

同社は京都府長岡京市に拠点を置く医療系スタートアップ。石田氏が21年間、臨床工学技士として透析現場で患者と向き合ってきた経験を背景に、「糖尿病による足切断ゼロ」を目指す世界初の足病診療支援プラットフォーム「Steplife(ステップライフ)」を開発。ピッチでは、早期診断・予防・ケアを一体的に支援する仕組みの必要性を訴えました。「Steplife」は、足病変の画像診断、治療データ共有、患者教育を組み合わせ、医療現場の効率化と患者QOLの向上を同時に目指します。

審査員の小池氏(THE CREATIVE FUND)から「なぜ日本での展開が難しく、マレーシアに注力するのか」という質問に対して、石田氏は「日本でも需要はあるが、診療報酬の低さが阻害要因となり、医療機関が積極的に取り組みにくい」と説明。一方でマレーシアでは、砂糖税の導入や「糖尿病=足切断のリスク」という認知が広がっており、政府が国を挙げて対策を進める体制があることから、連携による展開が進みやすいと強調しました。

6 ペンタリンク株式会社

代表取締役 野中章生氏

ペンタリンク株式会社

自動養蚕とシルク新素材で次世代の繊維産業を創出する

西陣織の革新を原点とする企業から独立して誕生し、シルクの新たな可能性を切り拓いているスタートアップです。ピッチでは、世界のシルク生産が縮小する一方で需要が高まり、価格が約2倍に上昇している現状を紹介。その課題に対し、同社が開発した「自動養蚕システム」と「人工飼料」による低コスト化の取り組みを発表しました。京都・美山町の研究所やラオスでの桑栽培を例に挙げ、持続可能な生産体制を整えている点を強調しました。さらに、蚕の体内タンパクを抽出して新素材を生み出す独自技術を披露。「繭を使わず幼虫のタンパクを利用することで、新しい繊維や化粧品素材の開発が可能になる」とし、京都工芸繊維大学や東京農工大との産学連携も進めていると説明。

審査員の荒木氏(ロート製薬)から「養蚕が衰退してきた背景や人材確保の見通し」について質問がありました。野中氏は「餌やりや掃除など集約的労働が負担となり担い手が減った。国内での維持は困難だが、自動化による負担軽減や海外展開を視野に入れている」と説明。さらに「シルクタンパク抽出による新素材開発が、伝統的な製糸に代わる未来の選択肢になる」と語りました。

7 株式会社esa(イーサ)

代表取締役 黒川周子氏

株式会社esa(イーサ)

廃プラスチックを資源に変える「Repla®」で循環型社会へ

同社は、廃プラスチック問題に挑むスタートアップです。企業から回収した廃プラスチックを、独自技術で再生ペレット「Repla®(リプラ)」に加工し、プラスチック製品の原料として循環利用する仕組みを提供しています。ピッチでは、世界で増え続けるプラスチック廃棄量と、日本のリサイクル率の低さを課題として提示。複合素材を分離せずにリサイクルできる独自技術を強調。再生樹脂は添加剤で機能性を高めることで幅広く応用可能と述べました。茨城県の自社工場で運営を進め、CO₂削減効果を数値化したカーボンクレジット事業も9月に申請予定と発表しました。

審査員の手塚氏(三井住友銀行)から「回収や再生の仕組みの特徴」「再生製品の特性」について質問が投げかけられました。黒川氏は、複合素材を分離せずそのままリサイクルできる点が同社の強みであり、企業から同質のプラスチックを一定量回収する仕組みで安定した供給を実現していると説明。また、再生樹脂は物性が低下するものの、添加剤による機能性付与や中間層での利用など幅広い応用が可能であると強調しました。

後編へ続きます。

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