2023.02.24
イベントレポート
FASTAR 6th DemoDay
※こちらの動画は、「アクセラレーションプログラムFASTAR 6th DEMODAY」のダイジェスト版となります。
独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)は2023年2月24日、「アクセラレーションプログラムFASTAR 6th DEMODAY」を現地会場並びにオンライン配信によるハイブリッド形式にて開催しました。
本イベントは、中小機構が実施するアクセラレーションプログラム「FASTAR」の第6期(2021年度二次募集)で採択された7社と過去に採択された2社の企業による成果発表と、現地参加並びにオンライン視聴の投資関係者や大手企業とのマッチングを目的としたものです。
1年間のプログラムを経て、資金調達・事業提携など様々な想いを持って各社がピッチイベントに登壇し、事業会社をはじめ、投資関係者や大手企業等、多くの方に参加・視聴いただきました。
冒頭では、主催者の独立行政法人中小企業基盤整備機構 創業・ベンチャー支援部部長 坂本英輔氏、後援者の経済産業省中小企業庁 経営支援部 課長補佐 宮本祐輔氏より開会の挨拶が行われました。
続いて、株式会社エアロジーラボ、株式会社FingerVision、JSCテクノロジー株式会社、株式会社ARDe、株式会社TECH MONSTER、株式会社fcuro、株式会社FerroptoCure、順天堂大学 久松大介氏、株式会社RAINBOWの9社が本アクセラレーションプログラムにおいて練り上げた事業計画の発表を行いました。
【ものづくり】
株式会社エアロジーラボ
代表取締役CEO 谷紳一氏
「空から景色を見たい。誰も見たことのない景色を見たい。」という谷氏の想いからスタートしたエアロジーラボはFASTAR第1期採択企業。エンジンを搭載したハイブリッド型ドローン「AeroRangeQuad」は2時間を超える飛行時間を実現しました。国交省・環境省のサポートを受けて行った岡山県山間部での生活物資輸送の実証実験では2往復40キロを無給油・バッテリー交換なしで飛行することに成功。2023年度中に100台の量産体制を確立し、ドローン生産においては希少な国産メーカーとして高品質、高性能、安全性を追求します。
【ロボット、センサー】
株式会社FingerVision
代表取締役社長 濃野友紀氏
食品製造工場の現場は労働集約的で、作業の光景は何十年も変わっていません。機械化が難航している背景には、弁当の盛り付け等の作業は多品種日替わりで高い汎用性が求められる上、おかずや食品を柔らかくつかむという行為はロボットには難しいという理由があります。FingerVisionのコア技術はカメラをベースに触覚を再現する「視触覚センサ」。人が手のひらの感覚を使って物体を扱うような制御をロボットに持たせることにより、食品工場のラインの自動化をサポートしていきます。
【産業・エネルギー】
JSCテクノロジー株式会社
代表取締役 佐藤郁氏
JSCテクノロジーが推進するのは「データセンターのグリーン化を実現する超省エネ冷却システム」です。私はもともとパナソニックで冷却技術の開発に取り組み、15年間で約80件の基礎特許を取得しました。そんな中で行き着いたのが省電力で高速冷却を可能にする「新LHP(ルートヒートパイプ)冷却技術」。世界中で増加の一途を辿るデータセンターにこの技術を導入することで、使用電力の3分の1を占める冷却電力の約90%が削減できます。空調設備も80%、設備面積も半分以下に縮小し、地球環境に貢献します。
【ITサービス・ものづくり】
株式会社ARDe
代表取締役 山口剛二郎氏
ARDeのミッションは、先人たちが育んできたものづくりの技と知恵を、ARデバイスを用いて未来に伝えること。いま製造現場は高齢化により「カンやコツをどう伝えるのか?」という技能継承が課題になっています。ARDeはARデバイスを使用して製造作業を管理するアプリケーションを開発。ヘッドマウントディスプレイを通して指示を「見る」ことで膨大な作業指示書の50%削減を目指します。大手製造会社との提携を発端に、将来は消費者に安心を提供するトレーサビリティ・プラットフォームを構築します。
【コンピューター・ソフトウェア】
株式会社TECH MONSTER
代表取締役 京保雄一氏
TECH MONSTERが展開する「LIVEアシスト」は業務向けに特化したビジネスチャットツールです。コロナ禍によりリモートでのコミュニケーションは一気に普及しましたが、それをさらに円滑に行うべくオペレーターとのビデオ通話をサポート、拡大鏡や位置情報表示、ペンツールなど便利な機能を搭載しました。現在は高齢者に対するB to Cのカスタマーサポート等で使用していますが、今後は製造や建築現場、不動産業界など本社と現場をつなぐB to Bツールへの拡大を予定しています。
【医療ヘルスケア・ICT】
株式会社fcuro
代表取締役CEO 岡田直己氏
私は「大阪急性期・総合医療センター」の高度救命救急センターで救命救急医として働いています。救急で病院に運ばれてきた患者さんは、通常どこに損傷があるか確認するため、まずCT撮影が行われます。しかしCT画像は膨大な量があるため読解に時間がかかり、重要な情報を見落としてしまうことがあります。fcuroが開発した画像診断AIシステム「ERATS」は1000枚以上の画像の中から異常箇所の有無をAIが10秒で確認。AIの力で診断の遅れや見落としをなくすことで死亡率の最大25%削減を目指します。
【創薬】
株式会社FerroptoCure
代表取締役 大槻雄士氏
日本人の2人に1人ががんになり、働く世代の3人に1人ががんになる時代。FerroptoCureは世界で初めてフェロトーシス誘導性の抗がん剤の開発を進めるスタートアップです。フェロトーシスとは酸化ストレスによって誘導される細胞死のことで、現在さまざまな疾患の原因として注目されています。FerroptoCureでは難治性がん等を対象にした抗がん剤を開発。動物モデル実験では高い抗腫瘍効果と安全性の両立が証明されました。既存の治療薬とも併用できるため、広い適用範囲が期待されています。
【医療・診断】
順天堂大学
久松大介氏
私は順天堂大医学部で老化・神経科学を研究しています。今回起業前の事業として採択されたのは、唾液に含まれる細菌(マイクロバイオーム)によって認知症の診断を行うというものです。現在認知症患者は国内600万人、前段階である軽度認知障害まで含めると世界で1億人の人が苦しんでいます。しかし現状の診断方法では認知症の進行度や原因となる疾患の種別判定ができません。近年、唾液細菌は身体の生理状態を反映することがわかってきました。蓄積したビッグデータをAI解析することで認知症検診等に活かしたいと思います。
【医療】
株式会社RAINBOW
研究開発担当取締役 川堀真人氏
北海道大学脳神経外科発のバイオベンチャー。独自技術であるHUNS001は脳梗塞周辺部に直接投与するタイプの自家骨髄間葉系幹細胞薬です。脳梗塞は年間14万人が発症し、半数近くに後遺症が残る病気とされています。ただ罹患後に受けられるサービスはリハビリのみで、病状を回復させるどころか悪化も食い止められないのが現状です。RAINBOWは患者の骨髄液を採取し、それを自動培養、非凍結輸送して脳内に投与手術することで麻痺を治癒。すでにプロトタイプでは5年間の安全性・有効性を確認しています。
各社のプレゼンテーションでは審査員として、インキュベイトファンド株式会社 代表パートナーの村田祐介氏、KDDI 株式会社 事業創造本部副本部長 兼 Web3事業推進室長 兼 LX戦略部長の中馬和彦⽒、DCIパートナーズ株式会社 代表取締役社長の成田宏紀⽒、株式会社サムライインキュベート 代表取締役の榊原健太郎氏の4名が参加、各社に対して今後の更なる展開やマネタイズの手法など鋭い質問とコメントを寄せました。
イベント最後には、各社のプレゼンテーションの発表を受け、4名の審査員より以下のとおり賞が贈られました。
また受賞者は副賞として1on1による事業相談権またはピッチ登壇権を獲得しました。
インキュベイトファンド賞:
株式会社fcuro
インキュベイトファンド賞を受賞したのは、救命救急時のCT画像をAI解析することによって損傷箇所の早期発見、死亡率の減少を目指す「株式会社fcuro」。受賞理由について「インキュベイトファンド株式会社」代表パートナーの村田祐介さんは以下のように語りました。
「fcuroさんはチャレンジされている社会課題の幅が大きいと思います。私自身、画像診断のスタートアップは複数社支援していますが、上場に持ち込める可能性も含めてより深く議論させてもらいたいです。」
株式会社fcuro代表取締役CEOの岡田直己さんは救急救命医、外科医として勤務しており、今回はリモートでの出演、そしてピッチ終了後はすぐに診療に戻られていました。壇上では岡田CEOの代理で登壇された本多さんが「私たちは常に現場の医師に寄り添いながら製品を作っていくことに注力しています。FASTARでは主にビジネスモデルのブラッシュアップについてご支援をいただきました。その成果がこのような形でご評価いただけたことを大変嬉しく感じています。」と感謝の言葉を述べられました。
KDDI∞Labo賞:
株式会社ARDe
KDDI∞Labo賞に輝いたのは「株式会社ARDe」。ものづくりの世界の課題である技能継承を、ARデバイスを用いて行おうとしているスタートアップです。「KDDI株式会社」事業創造本部 副本部長 兼 Web3事業推進室長 兼 LX戦略部長の中馬和彦さんはARDeの持つポテンシャルについて以下のように述べました。
「今、デジタルツインの時代がひたひたと近づいています。これまでのインターネットは二次元だったので物販や情報に限られていましたが、インターネットが三次元になるというパラダイムシフトによってファクトリーだけでなく農業などアナログ世界全般がインターネットに取り込まれていく時代になると予想されます。ARDeさんの事業は、現状はARで業務を定型化するというものですが、ゆくゆくはアナログ世界のものをすべてインターネットに取り込んで、新しい世界を見せてほしいと思います。」
中馬さんは「一般社団法人Metaverse Japan」の理事でもあるので、その観点からも応援したいということでした。これを受けて株式会社ARDe代表取締役の山口剛二郎さんは、パートナー企業やFASTARプログラムに感謝の言葉を語られました。
DCIパートナーズ賞:
株式会社FerroptoCure
創薬・再生医療に特化したベンチャーキャピタルである「DCIパートナーズ株式会社」が選んだのは、創薬の分野で研究を続けている「株式会社FerroptoCure」でした。FerroptoCureは酸化ストレスによって誘導される細胞死=フェロトーシスと呼ばれる現象を用いた抗がん剤の開発を進めている世界初のベンチャーです。
DCIパートナーズ代表取締役社長の成田宏紀さんはこの試みについて「フェロトーシスに着目した部分も興味深いし、配合剤として新薬になるという部分にも成功確率の高さを感じます。」と受賞の理由を語りました。一方株式会社FerroptoCure代表取締役の大槻雄士さんは「予想外だったので嬉しいです。なんとか新薬を作り、新しい抗がん剤を待ってくださっている患者さんに届けることに尽力していきたいです。ここをゴールではなくスタート地点として、改めて頑張っていきたいと感じました。」と述べられ、製品化への意欲を訴えられました。
サムライインキュベート賞:
株式会社fcuro
最後にサムライインキュベート賞に輝いたのは、この日2度目となる「株式会社fcuro」。株式会社fcuroはなんとインキュベイトファンド賞とのW受賞になります!この快挙に関して「株式会社サムライインキュベート」代表取締役の榊原健太郎さんは以下のようにスピーチしました。
「たくさん感動しました!私は以前、医療機器の営業をやっていたことがあって、救命救急センターも担当。日々難病と向き合っている先生や技師さんと接して、何か役に立てないかと思っていたんです。あと最近、娘が病気になって救急車で運ばれた経験もあって、時間との戦いという救命救急の現場でこのサービスがあればより多くの命を救うことができると感じました。」
再び岡田CEOの代理で登壇された本多さんは「まさかW受賞できるなんて思ってもいませんでした。大変驚いています……」と恐縮された表情をされながら、「私たちは『救急の現場をより良いものにしていく』という想いで日々精進しております。今後とも応援よろしくお願いします。」と改めて思いを述べられました。
また、審査員を代表し、株式会社サムライインキュベートの榊原健太郎氏より、登壇企業へ熱いメッセージが贈られました。
「私は今日の冒頭の挨拶で『外国製のユニコーンじゃない、日本産のゴジラを作りたいんだ!』と発言しました。それはゴジラが世界的に有名という意味もありますが、ゴジラは世の中をより良くするためのアンチテーゼとして出現した側面もあります。日本は紛争をなくすような素晴らしい技術が多い国だと感じます。みなさんには利益を追求するというより、世の中をより良くするという意味で今後もゴジラを目指してほしいと思います」。