EVENT

2023.09.27

イベントレポート

アクセラレーションプログラム FASTAR 7th DemoDay(前編)

日本全国の先端技術・サービスを誇るスタートアップが、1年の成長を発表する「FASTAR 7th DEMODAY」が7月21日に開催されました。

「FASTAR」は独立行政法人 中小企業基盤整備機構 が主催し、ユニコーンやIPO、地域を担っていく中核企業を創出すべく、その予備軍となるスタートアップを支援するプログラムです。今回は第7期として採択された12社のスタートアップが、1年間のプログラムを通じ練り上げられた事業計画と事業成果を発表しました。

冒頭では、主催者の独立行政法人中小企業基盤整備機構 創業・ベンチャー支援部部長 坂本英輔氏、後援者の経済産業省中小企業庁 創業・新事業促進課 課長 伊奈友子氏より開会の挨拶が行われました。

審査を務めていただいたのは、株式会社ファストトラックイニシアティブ 代表パートナー 安西智宏様、i-nest capital株式会社 代表パートナー 山中卓様、Beyond Next Ventures株式会社 執行役員パートナー 橋爪克弥様、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 安元淳様の4名です。

ピッチは参加企業12社が7分間ずつ行いました。前半に6社、途中休憩を挟んで後半に残り6社のピッチを実施し、それぞれのピッチ終了後に審査員の方からコメントをいただきました。

1.パンクセラピー株式会社

1社目はパンクセラピー株式会社(Website 、発表者は代表取締役の立花太郎さんです。

パンクセラピー株式会社は、すい臓がんの克服を目指して、大阪公立大学と神戸大学の創薬ベンチャーとして設立されました。社名の「パンク」は「pancreas(パンクレアス)」、すなわち「すい臓」を意味しています。

同社はすい臓がんの治療薬の開発を主な事業としており、この癌の克服を目指すため、国内の様々な大学の先生方や大学発ベンチャーの皆さんと提携して開発を進めています。すい臓がんは5年生存率が10パーセントを切る非常に治療が難しい癌の1つで、患者数は年々増えており、この治療薬の市場は2023年度には世界で40億ドルを突破したと言われています。

パンクセラピーの全てのパイプラインは抗体医薬品であり、すい臓がんに対する抗体、すい臓がんのロングサバイバーから作成した抗体、そしてエクソソームをターゲットにした転移抑制用の抗体を開発しています。

最近の研究により、がんは均一ではなく、がん幹細胞という親玉があることが分かってきました。がん幹細胞から生み出されたがん細胞には抗がん剤が効きますが、このがん幹細胞そのものは抗がん剤に耐性があり、むしろパワーアップして再発などを引き起こすことが分かってきたのです。そこで、このすい臓がんの幹細胞を狙った治療方法を確立する必要があると考え、抗体の作成・開発を進めています。

パンクセラピーでは、すい臓がん患者から、すい臓がん幹細胞を特定・培養することに成功し、そのすい臓がん幹細胞を「KMC細胞」と名付けました。これはIPS細胞のような幹細胞と非常によく似た特性を持っています。

独自に開発したショットガン法という抗体作成法によって、このすい臓がん幹細胞を抗原とした抗体を多数作成しました。そのうちのいくつかは、人のすい臓癌を移植したマウスに投与することで、その癌の抑制効果があることを確認し、すでに特許出願をしています。

また、新しいコンセプトで開発している抗体もあります。すい臓がん患者の中には5年以上生存されているロングサバイバーと呼ばれる方々がいます。ロングサバイバーの患者さんから抗体を取り出し、独自のシングルセル技術を用いてリンパ球から抗体を作成する革新的な取り組みを行っています。

また、エクソソームに対する抗体の作成も重要な取り組みであり、がんの転移を抑制するための有望な治療法として注目されています。これにより、転移が少なく長期的な生存が期待される患者さんを増やせると考えています。

パンクセラピーは、様々なフォーマットを持つ製薬企業やベンチャー企業と協力して、より効果的な治療薬の開発を進めたいと考えており、すでに、CAR-Tで有名なノイルイミューン・バイオテック社と共同開発に向けた協議を行っています。

売り上げ計画については、数年後のIPOを目指しており、創薬ベンチャーとして、開発に多くの資金が必要です。初期の資金調達に成功し、開発を軌道に乗せたいと考えているとのことで、最後に「すい臓がんで苦しむ患者さんやご家族を笑顔にするために開発を進めていきたい」と力強く語りました。

審査員との質疑応答では、「御社の核となるビジネスモデルは、どのようなものを想定されていますか」との質問に対し、「創薬は非常にコストがかかり技術も必要なので、初期は積極的に大手の製薬会社に導出し、うまくいけば最初のイニシャルペイメントである程度の収益が見込めると考えています。製薬会社側での創薬が進めば、マイルストーン契約で売上が伸びます。力がつけば、自分たち自身での臨床試験も進めていきたいと考えています。」と答えました。

2.遠友ファーマ株式会社

2社目は遠友ファーマ株式会社(Website 、発表者は代表取締役 長堀紀子さんです。

テーマは「糖鎖が作る病態のスナップショットを新しい創薬標的とする抗体医薬品」について。

同社は新しい創薬標的で医療的アンメットニーズに応えることを目指しています。抗体医薬品による創薬事業と、創薬支援事業の2本の事業に取り組み、現在はマネジメントメンバーと研究員を中心に、ビジネス面を進め、サイエンス面においてはアドバイザーの協力を得ながら進めています。

病気になると、細胞の表面にある糖鎖の構造は劇的に変化します。また、タンパク質の発現パターンが組織や細胞で異なることから、糖タンパク質は病体情報と場所情報を合わせ持つ理想的な創薬標的となります。

糖タンパク質の有望性は以前から知られていましたが、技術的な限界によって、その活用は十分に進んでいませんでした。しかし、2000年以降、質量分析技術の進歩及びAI技術との連携加速によって、近年、再び注目が高まっています。ビジネス面においても、関連バイオベンチャーが設立されて、製薬企業への導出例も出てきています。

一方、抗体医薬品は、開発の面、製造の面、市場の面、いずれから見ても、引き続き魅力的な創薬モダリティです。しかし、創薬標的が足りていないのが現状であると考えられています。承認済みの抗体医薬品が119に対して、標的の数は、わずか65に過ぎません。

抗体開発の上流工程である標的の発見と抗体作成、そして下流工程であるニーズに合わせた抗体エンジニアリングのうち、上流工程がボトルネックになっているため、この「創薬標的が不足している問題」を解決することで、医薬品開発を加速したいと考えています。
その方法は、糖タンパク質をターゲットとして、疾患特異的な動作の微細な変化を捉えることです。タンパク質の分子の中で本当に重要な一部分のみに注目して、その部位における糖鎖の構造と位置と組み合わせを厳密に決定して、それを総合的な標的とします。

同社が提案するプラットフォーム技術は、疾患による糖鎖変化を見極める分析技術、その糖鎖がどこにどういう組み合わせでついているのか位置と組み合わせを決定する技術、そして狙った糖ペプチドに対する抗体を確実に取得する技術を連動させて、シームレスに実施できるものです。

知的財産のポートフォリオは、糖鎖工学の基盤技術とそこから生み出される個別のパイプラインから構成されており、それぞれ特許とノウハウの組み合わせで保護されています。

抗体の例として、MUC1という糖タンパク質の重要な一部のペプチドに対して、糖鎖が1つ付いたもの、2つ付いたもの、3つ付いたものを示していますが、この糖鎖が1つだけ付いた糖ペプチドと、糖鎖が3つついた糖ペプチドそれぞれを見分けることができる抗体を作成しました。これらの抗体は、糖ペプチドのペプチド部分と糖鎖部分に同時に結合しており、それぞれの糖ペプチドに対する結合の特異性を発揮しています。

糖タンパク質に対する抗体事業を行う競合について、世界には数社、主要な競合が存在しますが、競合他者は、質量分析とAIによって標的を絞り込む情報技術を得意としています。一方、遠友ファーマは、糖ペプチドという実体のある化合物を合成する「モノづくり」を通じて、新しい創薬標的の存在を実際に証明し、その有効性をリアルに実証するアプローチが強みとなっています。

パイプライン開発の方針は、補助金を最大限に活用しながら、VCによる支援、製薬企業との協業を通じて、早期のアセット導出を目指して進めていくというものです。新しい創薬標的を生み出すプラットフォームだからこそ、可能な方法と言えます。

発表後の質疑応答では「自ら標的を見つけて抗体を作り、実際に試すという過程はどこまで進んでいますか?有効性には至っていないかもしれませんが、ある程度の効果が見えるかどうかも教えてください。」という質問に対し、

「標的を見つけることは確実にでき、抗体についても、動物(マウス)に免疫する方法で取得することができます。我々は糖鎖の構造と組み合わせと位置をコントロールした糖ペプチドを精密に合成し、糖鎖が少しずつ異なる一連の糖ペプチドライブラリを構築することができるので、糖ペプチドライブラリをマイクロアレイのようなフォーマットで利用し、スクリーニングをかけることで、本当に疾患特異的な糖ペプチドのみを厳密に認識する抗体を取得することができます。一部の抗体については、細胞レベルの実験で阻害効果が得られています。ただ、動物レベルでの実験自体はまだ行っていません。そのための資金を得ることも、本日の登壇の目的のひとつです」と回答しました。

3.株式会社HikariQ Health

3社目は株式会社HikariQ Health(Website 、発表者は代表取締役社長 吉井康祐さんです。

HikariQ Healthは東京工業大学発のスタートアップ企業で、2つの主要な事業を展開しています。1つ目は副作用のない抗がん剤の開発、2つ目は迅速かつ簡便な検査薬の開発です。

昨年、創業して間もなく、がん領域のスペシャリティファーマであるソレイジア・ファーマ株式会社と資本業務提携を締結しました。さらに、同年9月と10月には3社のVCから資金調達を行い、シードラウンドを完了しています。

同社が開発しているのは、Q-bodyという工学技術です。これは迅速かつ簡便な検査薬の開発を目的にしたもので、複数の事業会社と共同開発契約を締結し、共同研究を開始しています。また、1社とはライセンスアウトも決まっており、現在ライセンス契約書の締結中です。

次に、創薬事業についての説明がされました。がんは厳しい病気で、現在2人に1人が一生のうちにがんにかかり、そのうち5人に1人が死亡するとされています。さらに、実際は9割以上の患者が副作用に苦しんでおり、口内炎や手足のしびれが生活に支障をきたしています。これは、抗がん剤が無差別に通常の細胞も攻撃してしまうためです。

近年、がん細胞を特異的に攻撃する機能を有する抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる新技術が開発されました。ADCの市場は非常に大きく、成長率は25.8%。2028年には2.8兆円に拡大すると予測されています(Source: Emergen Research社ADC市場レポート)。実際に、ファイザー社がADC技術を持つシージェン社を5.7兆円で買収するとのプレスリリースもあり、現在、ヘルスケア業界で最も注目されている技術の1つです。

ADCは抗体、薬物、それらを結合させるリンカーの3ユニットからなり、この抗体が優秀な運び屋として、がん細胞に薬物を特定的にデリバリーする機能を有しています。ただし、デリバリーの過程でリンカーが壊れてしまい、結果として副作用を起こすことがあります。

これに対し、弊社が開発したのがQ-body型ADCです。Q-bodyが、がん細胞の膜タンパクと結合することがトリガーとなり、がん細胞近傍で薬物を放出することで通常細胞への影響を極小化し、がん細胞だけを特異的に攻撃します。これにより、抗がん剤の有効性の向上と副作用の極小化が期待されます。

同社の技術はまだ検証段階であり、今後、動物試験にてこれらの効果を確認する予定です。同社は独自のQ-body型ADCを開発し、これを様々なターゲットと組み合わせることで、多くの新規ADCを創出する計画です。市場規模も大きいため、長期的な事業展開が可能であり、データ収集、臨床試験、市場参入が進むにつれてリスクが低減する一方、事業の価値は上がっていくと考えられます。

最後に「一層の技術開発を進め、副作用が少なく有効性の高い新しい抗がん剤を提供するために、継続的に努力して参ります。」と締め括りました。

発表後の質疑応答では、「コアとなるリンカー技術、特に運搬から切り離す技術について詳しく教えていただきたいです。もちろん、話すことができない部分もあるかと思いますが、御社が先駆けてこのような技術を開発できる背景や技術バックグラウンドについても少し補足していただければ幸いです。」との質問に対し、

「Q-bodyは、検査薬を目的に開発されたものです。これは、弊社独自の遺伝子エンジニアリング技術を使って、機能性を持たせた抗体を作成したもので、具体的には、がん細胞に結合した時に、物性や機能が変化する効果を持ちます。この技術を用いると、がん細胞に抗体が結合した際に薬物を放出することが可能です。また、検査薬として利用する場合、結合して初めて光を放つなど、バイオセンサーとして機能することができます。この物性の変化は“目的の場所以外では発生しない”というオリジナリティーあふれる機能が、今回の技術のバックグラウンドです。」と回答しました。

4.株式会社ERISA

4社目は株式会社ERISA(Website 、発表者は執行役員CMO(2023年7月時点、現取締役)堀江裕史さんです。

株式会社ERISAは、精神科医療においてAI診断を実装することで、診断フローにパラダイムシフトを起こすことを目指しています。精神疾患による社会コストは全世界で2兆ドル以上に上り、人口増加、高齢化率の増大、急速なデジタル化、新型コロナによる社会変化や経済不安等、疾患人口のさらなる増加により、今後さらに増大すると言われています。

精神科が対応する疾患は、例えば、うつ病、認知症、統合失調症などがあります。中でも、うつ病患者は急増しており、重症化すると自殺の原因にもなることから、うつ病患者への対応は社会課題とされています。

双極性障害はうつ症状を呈し、うつを主訴として受診するため、専門医でさえも、大うつ病と双極性障害を見分けることは非常に困難とされています。合わせて認知症の早期診断も重要であり、さらに統合失調症は客観的な指標がないため、診断が難しいと言われています。

このように、精神疾患は社会への影響が大きく、診断の難しい疾患が多くあります。そこで同社は客観的な指標の確立を目指して、MRIから双極性障害や認知症などの疾患の診断を支援するAIを開発しました。同社がもつ脳画像解析ソフトウェアは、脳の全体を解析することが可能です。

まず初めに、双極性障害と大うつ病を識別するAIソフトウェアを開発しました。双極性障害は気分の浮き沈みを繰り返す疾患で、若年で発症することが多いと言われています。

うつ病には抗うつ薬、双極性障害には気分安定薬を処方する、というように、うつ病と双極性障害は治療薬が異なります。どちらも患者が受診するタイミングはうつ状態のときであるため、臨床現場ではその見極めが困難とされています。慶応大学の三村將教授と共に開発したこのAIは、脳画像から、うつ病と双極性障害を識別することが可能です。

同社の取り組みは、地元新聞やNHK、民放でも紹介され、社会から高い注目を浴びています。今後は医療機器認可を取得すること、対象疾患を拡大すること、販売国を拡大することによる事業規模の拡大を計画しており、うつ病と双極性障害の診断AIに関しては、2025年に市場への導入を計画しています。売上計画では、医療機器販売で売上を加速させ、2029年でのIPOを目指しています。

堀江さんは「AIを実装することは各疾患の早期診断を実現し、これによる医療費の是正、社会コストの低減を目指しています」と語りました。今期、同社はシリーズBを迎え、人員拡充、各種疾患の診断支援AIの医療機器申請、各国のレギュレーションへの適用を進めたいとも考えているそうです。

発表後の質疑応答では「現在、精神疾患を持つ人がクリニックや病院で問診を受けるのが一般的だと思いますが、MRIには費用がかかり、受けられる場所も限られています。このような障壁の解決策をお持ちでしょうか。」との質問に対し、

「我々は、ご指摘の障壁を乗り越えるために、精神疾患の診断フローにMRIを組み込むことを考えています。MRIはまだ精神疾患の診断フローに入っていないのですが、我々は画像診断の標準化、すなわち、診療ガイドラインへの掲載を目指しています。そのために、学会発表や論文投稿をおこない、多くのエビデンスを発信します。同時に、保険適用も目指しています。このための活動は簡単ではありませんが、地道な活動を通し、精神科医療にAI診断を実装することで、診断フローにパラダイムシフトを起こしたいと思っています。」と答えました。

5.株式会社HACHIX

5社目は株式会社HACHIX(Website 、発表者は代表取締役のグエン・コンタインさんです。

同社は日本とベトナムで生活した経験を持つチームで2017年に会社を設立。目標は、DXの力を使って製造業を自動化し、日本とベトナムの製造業に貢献することです。国の基幹産業である製造業について、日本は人手不足の課題を抱えている一方、ベトナムでは品質が安定していないという課題があります。

グエンさんが紹介したのは、2つのプロジェクト。1つ目はAIを活用した外観検査、2つ目はROS(ロボット・オペレーティング・システム)を活用したロボットの開発です。

まずAIの外観検査についてですが、製造現場での外観検査には3つの手法があります。目視検査、ルールベース検査、AI画像検査です。しかし、AI画像検査を導入している企業はまだ15%程度。導入にはデータの準備や学習が必要で、効果が分からない段階で費用が発生するため、中小企業が導入を躊躇していました。

そこで、同社がECOS-AIというソリューションを開発。短納期で低リスクなAIの導入が可能になりました。開発チームが1年かけて教師不要の技術を開発し、クラウドアプリも公開しています。3つのプランがあり、使用頻度や要求する性能に合わせてプランを選択できます。

1つ目のExpressプランでは、数十枚の正常画像を使用し、15分学習させるだけで、既存のipadを使って導入検証が可能です。 2つ目のBasic版の検査サイクルは3秒、AIの傷検査と寸法の測定を同時に実行できます。3つ目はPro版で、車の部品を生産している会社が実際に導入しており、検査サイクルは1.8秒、高速・多機能で精密製品を検査でき、検査員コストの80%削減につながりました。

次に、ROSを活用したロボットの開発についての紹介です。ROSはロボット開発のプラットフォームです。ロボット導入ニーズが高まる一方で、中小企業はコストなどの点から導入を躊躇している現状があり、その課題を解決するため、ROSを活用した費用対効果の高いビジネスの展開を始めました。

現在、AIとロボットの開発を並行して進めており、来年中にAIとロボットを組み合わせたパッケージを日本と東南アジアで販売する計画です。今年度には自己資金と補助金を活用してPro版までリリースし、市場価値を確認した上で、来年度から外部資金調達を行い、さらなる開発のスピードアップを図りたいと考えています。

審査員による質疑応答では「御社が部品にフォーカスしている理由について教えてください。また、部品にフォーカスした場合、中小製造業に対する営業戦略として、どのようなパートナーと提携して売り上げを伸ばしていくのかについて教えてください。」との質問に対し、

「弊社は名古屋市を拠点とし、設立してから現在までの7年間で多くの受託開発を行ってきました。受託開発では工場向けのシステムが多く、工場訪問の際にアナログな作業を多く見受けたため、自動化のニーズが大きいと考え、AIの外観検査を開発しました。営業戦略は、これまでの取引先とのネットワークを活かすとともに、弊社CTOの担当者が持っている中小企業のネットワークを活用します。加えて、さまざまなFASTARからのCMを受け入れ、そのネットワークを広げていく計画です。」と回答しました。

6.イクスアール株式会社

前半最後のピッチは、イクスアール株式会社(Website 代表取締役 蟹江真さんです。

イクスアール株式会社はXR教育訓練事業を行っており、蟹江さんは9年前から個人開発者として様々なXR開発プロジェクトに携わった経験から、イクスアールを設立しました。愛知県名古屋市に本社を置く創業6年目の会社で、チームは、XR開発経験のあるメンバー、ゲーム開発経験のあるメンバー、産業での営業経験のあるメンバーで構成されています。

イクスアールのビジョンは、技術革新と教育の融合で、人類を進化させることです。XR教育訓練を通じて、人の能力、職場の安定性、働く楽しさを向上させることを目指しています。

ターゲットとしている市場は、安全規制が強化されており、人材不足が顕著で、AIでの代替が難しい市場です。この市場に対して、短期間かつ低コスト、安全に教育訓練が行える「圧倒的な研修効率」を提供価値としています。

この提供価値を支える強みは、①多人数での実施や自発的な教育が可能となるゲーミフィケーション要素、②XRならではの没入感、③研修内容の振り返りや個人の最適化を支援する学習データの蓄積の3つです。

圧倒的な研修効率を実現した事例として、蟹江さんは防災ヘリコプター訓練開発事業について説明しました。当事業では、航空機メーカーと協力して防災ヘリコプターの操縦士や乗組員向けにXR訓練を提供しています。危険性が高く、高コストなトレーニングを安全かつ低コストで実施し、高い臨場感を持ちながら判断力を強化することが目的です。

このプロジェクトの背景には、2018年に発生した防災ヘリコプターの墜落事故があります。この事故を受けて安全規制が強化され、年間予定飛行時間の見直し、ダブルパイロット制の義務化、特殊な訓練やシミュレーターを使った訓練の義務化が実施されました。

また、この業界は人材不足が顕著であり、自衛隊出身者の再雇用が行われています。通常の訓練コストは1時間あたり113万円程度ですが、XR訓練にすることで、16万円で事故リスク無く、効果的な研修を提供できます。

今後の展開としては、XR教育訓練の強みを生かし、安全規制が強化されて人材不足が顕著で、AIで代替が難しい市場に展開していきたいと考えています。また、XRデバイスの普及タイミングに合わせた展開も視野に入れています。

現在は、自動車整備市場と安全衛生市場をターゲットとしています。自動車整備市場では人材不足が深刻であり、外国人整備士の受け入れが増加しています。さらに、次世代自動車(EV、ハイブリッド、水素自動車)が増加しつつあり、整備対応や安全規制の強化が求められています。このようなニーズに応えるため、短時間で学習可能な教育訓練パッケージの提供を検討しています。

安全衛生市場では、化学薬品を扱うすべての事業者が規制強化の対象となっており、労災の原因の8割を占めるとされる化学物質に対しリスクアセスメントの実施や科学物質管理者の選任が義務化されています。このような市場環境の変化に対して、短期間で安全に専門人材を育成できるXR教育訓練の提供を予定しています。

今後は新しい市場を獲得しながらSaaS化を視野に入れ、2030年の上場を目指しています。資金調達の方針として、今年の12月から安全衛生市場への参入を目的に調達を考えており、資金使途として、開発者、業界アドバイザー、営業・マーケティング人材の採用強化を考えているとのことです。

審査員との質疑応答では、「端末の用途として、エンタメ用途と研修用途が想定されていると思います。その中で、防災ヘリでの実際の使用について、お客様が選択する際のポイントや差別化点を教えていただきたいです。また、具体的にどのようなビジネスモデルを想定していますか?例えば、防災ヘリコプターのシミュレーターを作ってもらいたいという依頼があった場合、見積もりを出して納品するのか、また、バージョンアップや保守、メンテナンスで追加の費用をいただくのかなどの詳細について補足していただけると幸いです。」との質問に対し、

「私たちは現場に即して開発を行っており、特に航空機の場合、エンドユーザーであるパイロットと密にコミュニケーションを取りながら進めていることが差別化ポイントだと思っています。防災ヘリの場合、私たちは完全にメーカー様の商品に依存していますが、自動車や安全衛生の分野では私たち自身が主体的に開発して提供しています。パッケージの提供も可能で、メーカーに依存しない点が強みです。さらに、SaaS(Software as a Service)においては、学習データの蓄積が弊社の強みで、現在は訓練で使用されるデータがよく話題になりますが、今後はそれをどのように活用するか、どのように個人や組織にフィードバックを提供するかが重要になると考えています。」と回答しました。

後編へ続きます。

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