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2024.09.24

イベントレポート

アクセラレーションプログラム FASTAR 9th DemoDay(前編)

「FASTAR」とは、独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施するアクセラレーションプログラムです。

第9回目となります今回のピッチイベントでは、2023年に第9期として採択された16社のスタートアップが登壇し、プログラムを通じて練り上げられた事業計画と事業成果を発表しました。今回は、そのピッチの内容をレポートします。

ピッチに登壇した企業は以下の16社です。

イムノメディスン株式会社 代表取締役社長 中島俊洋
株式会社HICKY 共同創業者 稲垣大輔
バイオソノ株式会社 代表取締役 遠山賢
コングラント株式会社 代表取締役CEO 佐藤正隆
CloudBCP株式会社 代表取締役CEO 衛藤嵩史
リーグソリューションズ株式会社 代表取締役 大森能成
LINDA PESA株式会社 代表取締役CEO 山口亜祐
FACTORY X Inc. CEO & Founder 神谷喜穂
株式会社APTO 代表取締役CEO 高品良
株式会社Geotrans 代表取締役CEO 瀬川貴之
株式会社HERBAL8 代表取締役 安藤まりえ
リグナス株式会社 創業者 西村裕志
株式会社アグリツリー 代表取締役 西光司
Patentix株式会社 代表取締役社長 衣斐豊祐
Letara株式会社 代表取締役Co-CEO 平井翔大
将来宇宙輸送システム株式会社 代表取締役社長兼CEO 畑田康二郎
(敬称略)

開会に先立ち、主催の独立行政法人中小企業基盤整備機構 創業・ベンチャー支援部部長の 石井芳明より挨拶がありました。

「社会課題の解決、あるいはグローバル成長を目指すスタートアップに対して伴走型の支援をするということで、1年間一緒に走ってきました。今回はバイオ、IT、DX、宇宙など、さまざまな分野の先端的なスタートアップがピッチをしてくれます。」

続いて、本事業の後援者を代表して、経済産業省中小企業庁経営支援部創業・新事業促進室室長 掛川昌子氏からご挨拶をいただきました。

「ピッチ登壇される企業は、日本のみならず世界規模の社会課題の解決に寄与する革新的なものばかりであり、日本の未来を切り開いていくであろうと確信をしているところです。」

続いて、審査員として5名の紹介と挨拶がありました。

アクシル・キャピタル・アドバイザーズ株式会社 代表取締役社長 フレデリック・シェーン 氏
モバイル・インターネットキャピタル株式会社 代表取締役社長マネージングパートナー 元木新 氏
サントリーホールディングス株式会社 未来事業開発部部長 青木幹夫 氏
株式会社日本政策金融公庫 国民生活事業本部創業支援部部長 森本淳志 氏
株式会社UB Ventures マネージング・パートナー 頼嘉満 氏

それでは、参加企業16社のピッチをご紹介します。

1.イムノメディスン株式会社

1社目は、イムノメディスン株式会社(Website 代表取締役社長 中島俊洋さんです。

イムノメディスン株式会社

同社は、2020年12月に大阪大学発の創薬スタートアップで創業した、金田安史先生の発明を元にHVJ-Eという独自の技術をプラットフォームとして、がんの治療薬の開発を進めています。この技術は、がんに投与すると血液の中から好中球という一番数が多い細胞を呼び寄せてがんを殺すように指令を与え、全身のがんを治療するというものです。
今のがん免疫治療の中心はT細胞を使ってがんを殺す技術ですが、これと同社の技術を組み合わせることで、好中球とT細胞の2面攻撃が可能になり、効果が高くなることが期待されます。さらに、CXCL2という物質を使い、この好中球の数をさらに増やすというパイプラインとしての薬も開発しており、相乗効果が期待できます。
市場規模は、肺がんだけでも3兆円以上あり、得られるロイヤルティとして300〜1000億円の規模を実現したいと考えています。

審査員のシェーン氏より「がん以外のターゲットはあるか?」との質問があり、「1つ目はコロナウィルスなどの感染症、2つ目はアルツハイマー病で、特許も出願中。いらない物質を免疫で排除することができます」との回答がありました。

2.株式会社HICKY

2社目は、株式会社HICKY(Website 共同創業者 稲垣大輔さんです。

株式会社HICKY

同社は東京大学バイオデザイン発のベンチャーで、対象にしているのは心不全患者に合併する中枢性睡眠時無呼吸症候群(Central Sleep Apnea:CSA)です。
CSAにはこれまで、ASVという寝るときにマスクをつける治療法がありました。しかし、ASVは予後が不良になるとの報告もされており、日本では標準的な治療法が全くない状況です。一方、米国ではペースメーカー型の横隔神経刺激デバイスが出始めていますが、挿入に長時間かかること、大型のバッテリー植え込みが必要なこと、2〜3年おきの電池交換が発生することなどの課題があります。
これらを解決するため同社では、挿入が簡単でバッテリーもリードも不要なものを開発しています。具体的には、カテーテルでステント型デバイスを胸部静脈まで持っていって留置し、夜間のみ胸部から無線給電を活用して給電を行い、無呼吸発生時に電子刺激を行うことで、神経を刺激し、呼吸を再開させるものです。
「For Better Sleep, For Better Life」のミッションをもとに、世界初、日本発の治療機器を開発していきます。

審査員の頼氏より「充電の安全性」についての質問があり、「医療機器における無線充電は日本ではまだまだ確立されていない技術なので、医療機器の無線給電で実績のある米国の会社とコラボしているが、今後、より詳細なディスカッションが必要との認識です。」との回答がありました。

3.バイオソノ株式会社

3社目の発表は、バイオソノ株式会社(Website 代表取締役 遠山賢さんです。

バイオソノ株式会社

同社のプロダクト「食通」は、体が発する生体音とAIを組み合わせたデジタルヘルスツールです。
特に、介護領域でのデータ収集に強みがあり、高齢者の食事見守りを事業領域としています。背景として、介護事故における死因の第一位が誤嚥であること。「食通」はリアルタイムでノド音データをスマートフォンに送信し、その音を国家資格である言語聴覚士に代わってAI搭載アプリが判定します。
「食通」は、要介護3以上の全国52万人の被介護者、8400施設にアプローチし、介護事業者にノーリスクでキャッシュインをもたらす、新しいビジネスモデルを提供します。5年後の2029年には国内シェア11%、売上高104億円、54万人のユーザー獲得を目指し、2028年以降はアメリカFDAへのデバイス申請を皮切りにグローバル展開を計画しています。ボードメンバーには医療機器メーカー出身のスペシャリスト、多くの専門家が参加しており、今ある介護、健康のかたちを新たなフェーズに引き上げることを目指しています。

審査員の青木氏より「誤嚥問題は深刻だが、デバイスの装着は手間ではないか?」と質問があり「確かに手間は掛かるが、介護職員による見守りや介助が伴う要介護3以上にターゲットを定め、介護事業者にデバイス装着やスマホ見守りに対するインセンティブを支払うことで積極導入を促す」という回答がありました。

4.コングラント株式会社

4社目は、コングラント株式会社 (Website 代表取締役CEO 佐藤正隆さんです。

コングラント株式会社

同社は、寄付や社会的投資の決済プラットフォームを提供するフィンテック企業です。
NPO、公益法人、小中学校、大学、病院などのソーシャルセクターに向けた寄付のデジタルトランスフォーメーション(DX)システムを提供し、資金不足を解消します。
同社のシステムは寄付募集、決済、CRMなどをワンパッケージで提供し、支援者の決済手続のストレスをゼロにします。現在2500以上の組織が導入しており、業界のスタンダードになりつつあります。また、上場企業の寄付や社会的投資をサポートする寄付DXシステムも開発中です。
ビジネスモデルはシステム利用料と決済手数料がメインで、寄付市場の決済ビジネスでナンバーワンを目指しています。2027年までに国内でGMV200億円、寄付DXでナンバーワンを達成し、その後はアジア市場に拡大します。2028年12月までにIPOを目指し、世界中に寄付の仕組みを広げることを目標としています。
審査員の森本氏より「クラウドファンディングだとストーリーをのせた上で10〜15%の手数料を引くと思うが、こちらは5%くらいのシステム利用料になるのか?」という質問があり「キャンペーン型ではなく常設型なので、会費や毎月の支援などオールファンディングができる」との回答があり「自治会などにも応用できそう」との話がありました。

5.CloudBCP株式会社

5社目は、CloudBCP株式会社 (Website 代表取締役CEO 衛藤嵩史さんです。

CloudBCP株式会社

同社は、企業のBCP(事業継続計画)活動を総合的にサポートするSaaS「Cloud BCP」を提供しています。
昨今の自然災害、感染症、サイバー攻撃などの多様なアクシデントに対処するためのツールとして、BCPビジネスの重要性が増しています。東日本大震災時にBCPを行っていた企業は生産活動の再開が早く、経済効果が大きかったことが示されています。
一方、BCP策定には手間と費用がかかるため、大企業にしかできないという課題がありました。「Cloud BCP」は、AIを活用して業界特性に合わせたBCP策定を簡単に行い、策定、緊急連絡、課題管理を一括で提供します。これにより、コストや手間の問題を解消することが可能になります。主な機能はBCP策定機能、安否確認機能、BCP運用機能の3つで、中規模事業者をターゲットにしています。
同社は来年のシリーズAで有料導入企業数690社、月次経常収益(MRR)870万円を目指し、2030年のIPOまでに8500社の導入とMRR42億円を目指します。チームはフルスタックエンジニアで構成され、BCPの国際資格を持つメンバーや介護領域のBCPエキスパートも参画しています。

審査員の森本氏より「大分県津久見市が拠点とのことだが、メリットデメリットは?」という質問があり「市内にある大きな企業や市長さんなどに直接支援していただけるのがメリット。デメリットは、エンプラ企業に展開する際には東京に行かないといけないところ」との回答がありました。

6.リーグソリューションズ株式会社

6社目は、リーグソリューションズ株式会社(Website 代表取締役 大森能成さんです。

リーグソリューションズ株式会社

同社は2018年に産業技術総合研究所から技術提供を受けてベンチャーとして創業し、千葉県柏市にて活動を行っています。
超スマート社会の実現において、ロボットやモノの高性能な6自由度(6DoF)情報を取得する測位技術が不可欠です。自社開発・製造した「LEAG-SDK」は、汎用カメラで撮影をするだけで3次元の位置と姿勢の6DoF情報を取得することが可能です。1台の汎用カメラで画像を取得するだけで測位ができるため、物流、製造、建設、土木、医療など応用範囲は広く、既存システムへの組み込みや拡張など共存が容易です。
現在は、ソフトウェアライセンス、スタンドアローンシステム、大規模システムの3種類の商品を提供しており、利用実績として、自動車の車検などの診断作業があります。
リーズナブルで、高精度、モバイル性が高く、狭い空間でも利用が可能。こうしたモバイル性能を持ったマーカーによる測位技術の市場規模は、全国で680億円に上ると考えています。ドローン配送や保全監視など、順次販売を強化していきます。

審査員の元木氏より「競合比較でいうと、GNSS(Global Navigation Satellite System)は費用が高くて導入しづらいということ?」との質問があり「簡易版のGPSはあるけれど、もっと精度が欲しい場合には我々の技術が補完できる。電波干渉が出る都市のビルの隙間だとか、屋内空間とかが有利になる。」との回答がありました。

7.LINDA PESA株式会社

7社目は、LINDA PESA株式会社 (Website 代表取締役CEO 山口亜祐さんです。

LINDA PESA株式会社

アフリカにおける金融市場へのアクセシビリティは約20%にとどまっており、アフリカの多くのスモールビジネスは資金調達ができず、事業の拡大が困難な状況です。同社は、この資金調達機会のギャップを埋めていくことを目標にしています。
経営管理アプリを作ることでデータの蓄積を可能とし、そこからデータを取って信用力を可視化しました。また、与信スコアリングを行いデータ入力の頻度や行動データに基づいて信頼度を測定しています。融資の際には、オーナーに直接お金を渡すのではなく、サプライヤーに提供することで貸倒れ率や回収コストを低下させています。今後は冷蔵設備や機械といった固定資産の担保化を進め、貸付額の増加を図る方針です。
ビジネスモデルとしては、日本から低金利で資金を調達し、アフリカで高金利の融資を提供することで社会性と経済性を両立させています。
アフリカ市場の成長を見越し、タンザニアからケニア、DRC(コンゴ民主共和国)への進出も計画しており、2028年には売上20億円を目指しています。日本からの支援と現地のメンバーとともに、この巨大な市場に挑んでいます。

審査員の森本氏より「金利設定が高いのでは?」との質問があり「むしろこんなに低くていいのかと言われている状態。牛を飼って粗利が30%出るなら、月々5%は安いという計算」との回答がありました。また、回収方法についての質問には「現状はモバイルマネーという電子マネーの仕組みを通じて送金してもらっている。モバイルマネーの会社と一緒に自動で回収する仕組みを開発中」との回答がありました。

8.FACTORY X Inc.

8社目は、FACTORY X Inc. (Website CEO & Founder 神谷喜穂さんです。

FACTORY X Inc.

製造業では長らく、在庫は少なければ少ないほど良いとされてきました。しかし、現在の巨大で複雑化したサプライチェーンにおいて、従来の在庫削減方針は小さな問題が大きな影響をもたらすことがあります。この問題は長らく潜在的な課題として製造業の中に存在していましたが、新型コロナウィルスのパンデミックにより改めて在庫を持つことの重要性が注目されています。
こうした課題へ取り組むために生まれたのがFACTORY Xの「在庫戦略モデル」です。企業の生産性・収益性を向上させるために、製造工程ごとに生産・財務のデータをモデル化、生産性・収益性を考慮して構造全体の最適化により適正在庫を算出します。また、在庫データ・最適化ロジックを共通基盤化することで、ほかの工場や他社とのデータ連携が容易になりサプライチェーンの強化につながります。このシステムは在庫適正化に留まらず、運転資本・キャッシュフローの改善や、収益における機会損失の防止、サプライチェーンの安定化、BCPの強化といった攻守の面から経営を支援します。データ従量課金制により、大企業から中小企業まで企業規模を問わず利用でき、システム導入のために必要な既存業務の整理やデータ作成から、その後の運用保守まで安定運用を支援します。
在庫戦略モデルは代表・神谷の研究から国際学会Best Paper Awardを受賞し、事業化のために地盤を固めてきました。FACTORY Xは製造業界だけでなく、関連する人々の幸せを生み出すことを目指しています。

審査員の青木氏より「在庫を持った方が良いとは思っていたが、実際にやるのは難しい。需要予測とは違うことをやろうとしている認識であっている?」との質問があり「在庫戦略は自社の制約の中で生産・財務を最大化する方法論であり、需要予測に相反する仕組みになっている。ただ導入するべきかは、業界やクライアントの経営戦略によると思っている」との回答がありました。

後編へ続きます。

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