2024.09.24
イベントレポート
アクセラレーションプログラム FASTAR 9th DemoDay(後編)
「FASTAR」とは、独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施するアクセラレーションプログラムです。
> FASTAR 9th DEMODAY イベントレポート【前編】はこちら9.株式会社APTO
9社目は、株式会社APTO(Website ) 代表取締役CEO 高品良さんです。
同社は、AI開発の80%近くを支えるデータの収集、アノテーションに特化したサービスを提供しています。
アノテーションとはAIに学習させるためのデータに加工する作業をいいます。たとえば、AIが物体を認識するためには、人によるアノテーション作業が必要になりますが、人による作業なので精度にブレがでます。ただ、高精度なAIを作るためには、大量の高品質なデータが必要になります。そこで同社では「har Best」というサービスを提供しています。
まず企業は機械学習の対象となるタスクを選択し、プロジェクト名や、作業者の属性、実施期限、作業の説明を入力していきます。画像系のタスクなら、例えば1万枚のファイルデータをアップロードします。最後に開始ボタンを押すと同社のクラウドワーカーにタスクが展開されます。
これによって、24時間365日作業可能な体制になっております。クラウドソーシング型なので品質のチェックが必要になりますが、自動チェックアルゴリズムを用いて、良いデータを判定できるようなロジックが入っています。また、企業によっては機密性が高いデータを扱っているのでNDAを締結しているユーザーも存在し、秘匿性が高いデータも扱えるようにもなっています。
審査員の元木氏より「業界は活況だと思うが、他社との違いは?」との質問があり「アノテーションツールの勝負ではなく、土日祝日関係なく働いてくれるクラウドワーカーを囲っていることで機動力があることが優位」との回答がありました。
10.株式会社Geotrans
10社目は、株式会社Geotrans(Website ) 代表取締役CEO 瀬川貴之さんです。
同社は空間測量を活用した先端技術、つまり衛星、ドローン、MMS(モバイルマッピングシステム)、およびAIを組み合わせた技術を駆使し、インフラ点検や森林解析、固定資産税チェックの領域で強みを発揮しています。従来航空機一択だった撮影・測量を新たな機器で、また人力で行われていた作業をAIで効率化し、業務プロセスの革新による費用逓減と速度向上及び精度向上させることが可能になりました。
ビジネスモデルは、行政、自治体、電力会社、インフラ業界などに対し、AIを活用したサービスやソリューションを提供することです。例えば、森林解析では、木の材積量を把握し、林業や災害対策、温暖化対策として注目されています。インフラ分野では、電柱のメンテナンスをAIで効率的に行い、3600万本の電柱の点検や距離、傾きのチェックを行っています。これにより点検対象を絞り込み、法的な基準に基づく点検を迅速に実施しています。
市場規模は、固定資産税チェックや森林解析、インフラ点検を含むターゲットで455億円、全体計画策定では2000億円とされています。海外では、デジタルツイン技術を提供するBlackshark.aiや、高解像度衛星データを扱うXonaが資金調達を進めており、同社もこれらのトレンドを意識しています。
審査員の頼氏より「プロダクトには独自のAIモデルを持っているという理解で問題ないか?」との質問があり「対象業務に合わせた周辺システム含む独自AIモデルを持っています。それらの教師データは行政等の保有データを幅広く取込み、撮影機器・環境の差異を吸収する汎用性のあるモデルとなっていることに強みがある」との回答がありました。
11.株式会社HERBAL8
11社目は、株式会社HERBAL8(Website ) 代表取締役 安藤まりえさんです。
同社は2021年5月に設立、富山県富山市を拠点に香り空間サービスを提供しています。自社で栽培した紫蘇を水蒸気蒸留で抽出し、香りを調合。香り空間サービス提供およびフレグランスミストの製造・販売まで、一貫した工程にて香り空間事業に活用しています。
主な実績は、富山県内のホテルや空港ラウンジでの香り空間サービスや、自社店舗でのオーダーメイド販売も行っています。サービスは3つに分かれており、1つ目はマシンを用いた香り空間演出で主にB2B市場に向けて提供しています。2つ目は空間フレグランスで、B2BおよびtoC展開しています。3つ目はヒアリング調合サービスで、オーダーメイドの香りをB2B2Cに提供しています。SNSマーケティングも活用しており、インスタグラムや公式LINEでのコミュニケーションを図っています。
今後の事業戦略としては、独自の製品開発とB2B展開、メンタルヘルスケアの応用を目指しています。2026年度には自然の香り抽出製法の確立、2027年度には多機能香りディフューザーの開発を予定しています。2030年10月期には、売上高46億円、経常利益19億円を見込んでいます。
審査員のシェーン氏より「なぜ青紫蘇のエッセンシャルオイルが良いと分かったのか?」との質問があり「特に日本人の食生活の中で青紫蘇、赤ちりめん紫蘇は縄文時代から食として親しまれてきた。食というのは香りフレーバーでもあるので、そういった日本人にとって身近な香りをまず私たちが理解したいという思いもあり紫蘇の栽培を始めた」との回答がありました。
12.リグナス株式会社
12社目は、リグナス株式会社 創業者 西村裕志さんです。
持続可能な循環型社会を作る。これは人類存続をかけた地球規模のミッションであると考え、同社は特に植物バイオマスを変換するサプライチェーンの最上流部分のコア技術を提供したいと考えています。
リグニンは樹木を守る天然のバリアで、地球上にある最大の芳香族有機資源ですが、分解と変性をしないと取り出すことができませんでした。同社では、グリーンプロセスによってリグニンとセルロース素材を一気通貫に創製します。次世代リグニンはこれまでのイメージを一新する新素材です。さらに、マイクロカプセルやナノ粒子に加工することも可能です。
ビジネスモデルは、地域ブランドや未利用のバイオマスを有効に活用し新素材として製造し、さらに高付加価値の素材を作ることです。第一に注力するマーケットは紫外線防御剤で、化粧品分野だけで4.6兆円の大きなマーケットがあります。
こういった新しい素材を皮切りにGX技術を社会実装し、いち早くカーボンニュートラルの実現に貢献したいと思っています。
審査員の青木氏より「原料は何か?」との質問があり「針葉樹林でも紅葉樹でも、食品残渣や草、稲藁等でもできることを実証しており、非常に普遍的なプロセスになっている。原料は多様だが、品質管理をして製造するのが一つのコアデータベースだと思う」との回答がありました。
13.株式会社アグリツリー
13社目は、株式会社アグリツリー(Website ) 代表取締役 西光司さんです。
同社は、福岡県那珂川市を拠点に九州や中国地方を中心に全国で「ソーラーシェアリング」を提供しています。
ソーラーシェアリングは、農地の上に太陽光発電パネル(細長い専用モジュール)を設置し、農業と発電事業を両立させることで、発電収益を農業者に還元し、安定した農業収入を実現します。
同社はプロジェクトの組成から調査、行政手続、資金調達まで一貫して提供し、地域にリーズナブルな再生可能エネルギーを供給しています。山口県下関市では、地元企業やENEOSと協力し発電事業会社「合同会社有機の里」を設立し、ソーラーシェアリングと農業で得た発電収益を地域に再投資して地域活性化にも貢献しています。このモデルを全国に広げることを目指して自治体との連携や事業パートナーとの協力を強化しています。
海外ではJCM制度を活用し、脱炭素と地域課題解決のためにソーラーシェアリングの普及を推進していく予定です。
審査員の青木氏より「ソーラーパネルをつけつつ農業をやるとなると、トータルでプラスになるのか?」との質問があり「通常の野立の太陽光発電設備と比べると発電事業による収益は若干落ちるが、再生可能エネルギー由来の電力の単価が高くなってきているので、経済性は成り立つようになっている」との回答がありました。
14.Patentix株式会社
14社目は、Patentix株式会社(Website ) 代表取締役社長 衣斐豊祐さんです。
同社は立命館大学のベンチャー企業で、半導体を用いて世界のエネルギー問題に対処しています。
従来の半導体(シリコン)では、電流の変換過程で数パーセントの電力損失が発生していましたが、同社の次世代パワー半導体材料GeO2は、この損失問題を解決します。また超小型化が可能で、例えば新幹線に搭載すれば空いたスペースにバッテリーを設置することができ、停電時でもエアコンの稼働や運行を維持することができます。
同社の半導体は、コスト、エネルギー効率、事業性の三拍子が揃っており、世界で唯一の製膜技術を持っています。国内外での権利化も進んでおり、特に超高耐圧や高出力が求められる産業機器やパワフルなドローンなどの分野での活用が期待されています。さらにGeO2半導体は、酸化物結晶で放射線耐性が強いため宇宙用の電源機器にも使用可能です。
また「琵琶湖半導体構想」を進めており、原料から最終製品までの研究開発を他企業と共同で行っています。この取り組みはエネルギーの損失を減らし、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。
審査員の元木氏より「宇宙通信とか先端材料半導体という、ある意味国力を増強するようなものが作られています。その可能性は?」との質問があり「半導体材料としては世界のトップランナーだと思う」との回答がありました。また審査員の森本氏からは「小型化とコスト」について質問があり「小型化は現在実装されているものを応用して簡単にできる。コストについても既存の半導体よりも安く作れるのではないかと考えている」との回答がありました。
15.Letara株式会社
15社目は、Letara株式会社(Website ) 代表取締役事業Co-CEO 平井翔大さんです。
同社は北海道大学発のベンチャー企業で、人工衛星などの宇宙機用のエンジンの開発・販売を行っています。ロケット業界では、水素やヒドラジンといった非常に危険な燃料を使用するため、爆発事故が多発しています。同社では、これらの危険な燃料を排除し、安全なロケットエンジンを作ることを目指しています。
具体的にはプラスチックを燃料とすることで、爆発のリスクがないロケットエンジンを開発しています。このエンジンは人工衛星用やロケットの上部ステージ用、月へのミッション用など多様な用途に利用可能です。エンジンの特徴としては、安全性、制御の容易さ、小型から大型まで対応可能なスケーラビリティがあります。
競合も存在しますが同社は燃焼、点火コントロール、冷却デザインの分野で特許やノウハウを蓄積しており、優位性を持っています。今後の計画として、2026年から2027年までに宇宙での実証を行い、販売を開始して8年から9年後に黒字化を目指しています。
審査員のシェーン氏より「出力対コスト対安全性のバランスが大事だと思うが、コスト面のメリットは?」との質問があり「これまで使ってきた爆発を伴う燃料は、安全管理のコストが高かったが、そのコストがいらない。開発費、製造費、提供したときのコストは今までのものよりも圧倒的に下げることができるメリットがある」との回答がありました。
16.将来宇宙輸送システム株式会社
16社目は、将来宇宙輸送システム株式会社(Website ) 代表取締役社長兼CEO 畑田康二郎さんです。
同社は2022年に創業し、再使用型ロケットの開発に取り組んでいます。ロケットを使って人や物が宇宙に行くことが当たり前になる未来を見据え、新しい産業を創出する挑戦をしています。宇宙産業は今後グローバルに成長し、2040年代には150兆円規模に達すると予測しています。
現在、宇宙輸送開発の大部分は米SpaceX社が担っており、日本は国主導の数回の打ち上げに留まっています。これを変えるため同社では、JAXA宇宙研が持つ技術をベースにしつつ、民間の立場からロケットビジネスを提案しています。
小型の離着陸試験機を開発し段階的にその技術を進化させ、人工衛星を周回軌道に投入できるロケットを目指しています。ロケット開発プラットフォームP4SDを構築し設計データや試験結果、シミュレーションをAWSのサーバーで解析し、進化するロケットの開発体制を整えています。
まずは超小型・小型衛星の打ち上げ市場から参入し、再使用可能なロケットでコスト競争力を高めます。この市場は3兆円規模と見込まれており、5年以内にビジネスを確立し10年以内に有人宇宙輸送、20年以内に誰もが宇宙に行ける世界の実現を目指します。
審査員のシェーン氏より「リユーザビリティーの肝となるテクノロジーとは?」との質問があり「日本の宇宙開発は繰り返しロケットを使う研究はされていなかったが、航空機の点検のノウハウをロケットに持ち込むということをやっている」との回答がありました。
また、審査員の頼氏からは「米の先行者に追いつくには?」という質問があり「世界のロケットは大型化している。ニッチ市場ではあるが、小型で競争するのが有利かと考えている」との回答がありました。
表彰式
全てのピッチを終え、受賞者の発表となりました。
アクシル・キャピタル賞
受賞:コングラント株式会社
【審査員コメント】
「寄付分野は、日本が他の先進国と比べても劣っているところだと僕は思います。ぜひ寄付金の循環を良くする、寄付しやすい、受けやすい仕組みを作っていってほしいので、どんどん頑張っていってください」
【受賞者コメント】
「日本の寄附の構造というのは非常に古くて、僕は良くないと思っているので、単にITシステムだけでなく、制度も含めて変えていけるようにこれから頑張っていきたい」
モバイル・インターネットキャピタル賞
受賞:Patentix株式会社
【審査員コメント】
「期待値が高い。ここから量産化が課題かと思うが、モバイル・インターネットキャピタルはデジタルテクノロジーを中心に投資をしており、その基盤となる半導体が最も重要であると感じていますので、今後も頑張っていただきたい」
【受賞者コメント】
「材料開発というのはなかなか評価していただけないことが多いのですが、この早い段階で評価していただき、結構長く暗いトンネルを進んでいたので、大変ありがたいです」
サントリーホールディングス賞
受賞:リグナス株式会社
【審査員コメント】
「バイオマスということで、サントリーと相性がいいということと、もう一つはディープテックをやってみたかった。今まで短期に結果が出るようなことをやってきたので、自戒の念も込めて賞を贈らせてもらいます」
【受賞者コメント】
「いわゆるグリーントランスフォーメーション(GX)と呼ばれる取り組みですが、森林から始まって地球の気候を作っているもの。みんなの力で変えていくことがこれからの世界にとって絶対重要だと思っており、私一人の力でできないことがたくさんあるので、皆さんに応援いただきながら、信念を持ってやっていきたい」
日本政策金融公庫賞
受賞:CloudBCP株式会社
【審査員コメント】
「大分県津久見市という地方都市で頑張っているところ、まずそこを応援したい。また、災害が起きたときにいかに企業の持続をサポートするかという取り組みは我々と親和性があると思った」
【受賞者コメント】
「我々自身も社会的意義をすごく誇りに思って事業を行っていますので、そういったところでご評価いただけたのが大変嬉しいです」
UB Ventures賞
受賞:バイオソノ株式会社
【審査員コメント】
「日本は超課題先進国でシニアが増えていく。こういった先進的な技術は、今後アジアにも展開できる可能性があるというのが一点目。二点目は、今後、音からのAIというのは一つの技術のポテンシャルと考えているので選ばせていただいた」
【受賞者コメント】
「体が発する音というのは体が発しているメッセージだというふうに認識しています。そのメッセージを正しいメッセージとしていかに捉えて、それを健康管理に役立てられるか、まだまだいろんな可能性があると思う」
各受賞者には、副賞として1on1での事業相談の権利が与えられます。 続いて、今回のデモデイから参加者の投票によって受賞企業を決める「オーディエンス賞」の発表がありました。
オーディエンス賞
受賞:Patentix株式会社
オーディエンス賞には中小機構の支援に加え、NEDO、JSTの紹介や規制などの制度面での対応といった公的支援全般のサポートを実施する追加支援パッケージが与えられます。
最後に、独立行政法人中小企業基盤整備機構 理事 の坂本英輔より閉会の挨拶がありました。
「中小企業基盤整備機構は20年来、主にベンチャーファンドへのLP出資、もしくは全国各地の大学と連携をしたインキュベーション施設の運営をやってきましたが、特にソフト支援にも力を入れており、FASTARについても既に5年10期を実施、年々応募いただける皆様の実力も上がってきています。これからも引き続き支援と、その他の様々な施策を進めていきたいと思っております」
閉会後には交流会が開かれ、会場に集まったVC、金融機関、事業会社、その他スタートアップにご関心ある方々とピッチ参加企業が活発に意見交換を行いました。